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July 24, 2005

「倫理的消費者」の取り込みに動き出した高級ブランド

買い物をするときの私たちの何気ない選択が資源の枯渇や環境破壊につながったり、途上国の人々の暮らしに影響を与えたりする。こうしたことまで考えて商品を選択する。それが「倫理的消費者」だ。これまでその存在を軽視してきたラグジュリー・ブランドが、ここへきて「倫理的消費者」を意識した戦略をとりはじめた。チェンジエージェントとしての「倫理的消費者」は今後、ますます企業活動に大きな影響を与えていくであろう。

「フェアトレード商品」と聞いてまず思い浮かぶのはコーヒー豆(5月31日付ブログ「LOHASなコーヒー」)という人は結構多いが、実際には、チョコレートや生活雑貨からオーガニックコットンを使ったエコ・ファッションまで、実に多彩だ。ただ、これらを手がける企業の大半が小規模経営だし、いずれも知名度の低いローカルブランドである。そして、必ずしもカッコイイおしゃれなデザインとは限らない、というのがこれまでの“常識”であった。

ファッションの世界で今、その“常識”が覆されつつある。ロックバンドU2のボノが、夫人や友人のデザイナーと共同で今年3月、立ち上げたフェアトレードのファッションブランド“EDUN”(エダン)の成功もその要因の一つだが、むしろ、グッチやボッテガベネタ等、高級ブランドを抱えるPPRと、ルイヴィトンに代表されるLVMHというメジャーな両グループがともに新たな路線を打ち出したことが注目される。

途上国の生産者に適正な賃金を支払い、永続的に取引を続けることで、貧しい人々の経済的自立をサポートするというのが狭義の「フェアトレード」だが、両グループともこれに環境の視点を加えているのが注目される。7月3日付の英Financial Times紙サンデーマガジンが、そんな最新のトレンドを特集している。

“Ethical Consumerism”― 日本語では「社会的責任を意識した倫理的消費者」と訳されることが多いが、分かりやすく言えばこうなる。日々買い物をするときの私たちのなにげない選択が、石油資源の枯渇や環境破壊につながったり、途上国の人々の暮らしに影響を与えたりする。こうしたことまで考えて商品を選択しよう、という発想である。

これに名乗りを上げたのはPPR。ファッションブランドだけでなく、プランタン等の小売業も展開するPPRは5月17日、プランタンやラルドゥートなど、グループ内のすべての小売店で今後、フェアトレード衣料品の扱いを増やし、他社に先駆け、“エシカルファッション”に力を入れる旨発表した。これは今春、実験的にプランタンにコーナーを設けた“Veja”ブランドの商品が予想外の売れ行きを見せたことに意を強くしたというのが本音であろう。

ちなみに、“Veja”は、二人のフランス人起業家がはじめたスニーカーのブランドで、オーガニックコットンと天然ゴムを使用し、ブラジルでつくられている。これが飛ぶように売れ、入荷待ち状態が続いているという。素材や製造方法が“倫理的”であるだけでなく、デザインがおしゃれである点が人気の秘密だ。

他方、ルイヴィトンは、PPRとは異なる路線を打ち出した。地球温暖化の原因、二酸化炭素の排出削減だ。同社のエマニュエル・マティウによると、昨年からサプライチェーン全域にわたる二酸化炭素の排出を調査した結果、全工程中もっとも二酸化炭素の排出量が多かったのは商品の空輸であることが分かったという。というわけで、今年から、可能な限り飛行機をやめ、海上輸送に切り替えはじめた。船だと、二酸化炭素の排出量が40分の1で済む。このあたりのフランスの環境・エネルギー開発庁が開発したCarbon Inventoryという二酸化炭素測定方法で分析したものだ。

このCarbon Inventory法によると、ルイヴィトン社のサプライチェーンで、輸送に次いで大きな排出源(全体の8%)となっているのが包装である。そこで同社は、包装の簡素化にも着手すると同時に、素材面でも、プラスチックのパッケージを止め、再生厚紙に切り替えつつある。

たしかに現時点では、Tシャツはともかく、何十万円もするドレスやバッグを買うときに、ここまで気にして商品選びをする「倫理的消費者」はごく少数派であろう。だが、消費者の意識が確実に変わりつつあることを考えると、あと1~2年も経たない内に、高級ブランド業界全体にとってこれは重要な経営課題となっていくものと思われる。

July 24, 2005 | | Comments (1) | TrackBack

July 15, 2005

マーケティング発想で勢力を伸ばすキリスト教右派(2)

いち早くマーケティング手法を取り入れて若年層にアピールし、急拡大を続ける米プロテスタントに負けじとばかりに、米カトリックも動き出した。マッキンゼーの元マネージングディレクターやペンシルバニア大学ウォートン校の学部長など筋金入りの経営プロフェッショナルが主要メンバーに名を連ねる全国組織、National Leadership Roundtable on Church Managementの発足。これに象徴される経営改革のうねりは今、バチカンまでも巻き込もうとしている。ローマ法王を頂点とするカトリック教会。全世界に10億人以上の信者を抱え、年間予算も1兆ドル超とか。この巨大組織の経営改革が成功すれば、そのインパクトたるや計り知れない。

050715 「教会経営を議論する有力者会議」― 砕いて訳せばそんなところだろうか?

アメリカで、この3月National Leadership Roundtable on Church Management(NLRCM)という非営利組織が設立されたらしい。"Church Marketing-1"では、現代的マーケティング手法を取り入れて急速に信者を獲得しているプロテスタントの一派が紹介されていたが、対するこちらの背景はカトリックだ。いち早くマーケティングを取り入れて若年層などにアピールしてきたのはプロテスタントだが、カトリックの動きもあなどれない。

NLRCMのサイトを見ると、カトリック教会の大司教など教会関係の有力者に混じって、マッキンゼーの元マネージングディレクターやペンシルバニア大学ウォートン校の学部長など、筋金入りの経営プロフェッショナルが主要メンバーに名を連ねている。この組織、単なる教会関係者の寄り合いではないのだ。

その活動内容もハンパではない。設立に先立つ2004年にはフィラデルフィアにあるウォートン校で二日間の会議を開き、その内容を計85ページの分厚い報告書にまとめあげている。目次を見ると、Governance、Accountability、Human Resources、Financial Resourcesなど、最近の日経紙面を賑わせているような経営用語が目に飛び込んでくる。さながら、経営再建を目指す企業の事業計画書のようではないか。ともかくカトリック教会がなにやらすごい改革に向けてまさに動き出そうとしている、そんな雰囲気をビシバシ感じさせるような気合の入った内容なのだ。

こうした動きと足並みを揃えるように、5月7日のFinancialTimes紙Weekend Sectionの一面には"The Pope as Chief Executive"と題して前出の元マッキンゼーMD Frederick.W. Gluckが長文を寄稿。教会経営について財務・人事面を中心に具体的な提案を行い、新法王に経営改革を促す内容だ。イギリスを代表するメディアの一面に露出してくるところを見ると、ますますもってNLRCMの本気度を感じずにはいられない。

それにしても「教会」と「経営」という言葉が並ぶと、どうもしっくりこない。果たして総本山であるバチカンは、米カトリック界のこうした動きをどう受け止めるのだろうか?仮に、もしアメリカ発の動きがどんどん波及し、ローマ法王がまさしくカトリックのCEOとして世界中の教会にドラスティックな経営改革をもたらしたらどうなるだろう?

FT紙によると、カトリック教会の年間予算はアメリカだけで1,000億ドル超、世界全体では1兆ドル(!?)超とか。雇用面を見ても、アメリカだけで100万人が教会関係の仕事に従事。世界全体のデータはないが、なにせ03年現在全世界で10億800万人というカトリック人口だ(http://www.cbcj.catholic.jp/jpn/news/population2005.htm)。世界最大の企業、ウォルマートでも、年間売り上げ2,200億ドル、従業員は128万人。単純比較はできないものの、カトリックがいかに巨大な組織を世界規模で形成しているかは理解できるだろう。

"The Pope as CEO?" ― 実現性は未知数だが、今まで考えもしなかった巨大な市場が突如マーケティング業界の前に出現する、そんな日を予感させるニュースだ。プロテスタントに比べると動き出したばかりのカトリックだが、さて次の一手はどうくるか?これからに目が離せない。

July 15, 2005 | | Comments (0) | TrackBack