若者を虜にする秘訣とは…
ひょっとしてあなたも、「今どきの若者は…」とため息をもらしていませんか。ま、理由は人それぞれでしょうが、要するに、“大人”にとって彼らが「理解不能な存在」だからでしょうね。
こうした理解不能な種族とどう心を通じ合うかは、親御さんや大学の先生にとっても頭の痛い問題ですが、若者を顧客として取り込もうとする企業にとっては、それこそ死活問題です。テレビも見ないし、新聞なんか触ったこともないという人に普通の方法じゃリーチできませんし、そもそも広告に対する不信感の強い世代です。
そんな「今どきの若者」の関心を惹きつけるため世界中の企業が悪戦苦闘するなか、それに見事に成功している企業があります。まずはそのキャンペーン“Bom Chicka Wah Wah”をご紹介しましょう。
(注)過激な内容を含みますので、職場でご覧になる方はご注意ください。
さかりのついた雌狼の声!?
“Bom Chicka Wah Wah”(ボムチカワッワッ)。これは発情期のメスの狼が発する鳴き声です。しかも、鳴き声だから言葉の壁はない(?)ので、男性を誘惑する全世界共通の表現として使える。面白いことに着目する企業もあるもんですね。何を隠そう、あの世界的多国籍企業ユニリーバです。
ユニリーバ社は今、この“Bom Chicka Wah Wah”をコンセプトに、テレビやYouTube、オンラインゲームなどを通して、若者向けボディスプレー「アックス」のキャンペーンを世界各国で展開しています(日本でも変わったテレビCMで話題になったのでご存知の方も多いと思います)。
たとえば、“Bom Chicka Wah Wah Girls”という3人組のセクシーな女性バンドの動画をYouTubeにアップしたり、ヨーロッパの4都市でライブ演奏も行ったりといった具合です。彼女たちが歌っている曲の題名も、「Bom Chicka Wah Wah: It’s the Libido’s Mantra」と結構、刺激的です。
オンラインゲームも何種類かありますが、「DIRTY GIRLS」と銘打ったゲームでは、泥だらけになった二人の内、自分好みの女の子を選び、「アックス・ボディジェル」をしみこませたスポンジで泥を洗い流す。実際にはスポンジの形をしたカーソルのポイントで画面上の女性の身体をこするわけですが、一定時間のあいだにどれだけ彼女をきれいにできたかで獲得ポイントが違ってきます。
もう誰にも止められません
こうなると、そこから先は若者たちの出番です。“Bom Chicka Wah Wah”の虜になった何千万人もの若者たちが次々とブログで取り上げたり、携帯やインスタントメッセージで友達に教えたり、写真共有サイトのフリッカーにアップしたり、世界的なコミュニティサイトのマイスペース、ソーシャルニュースサイトのDiggにアップしたり…
震源地であるユニリーバの手を離れ、放っておいてもどんどん口コミが世界中に広がっていきます。もう誰にもその勢いを止めることはできません。
Web 2.0のシルクロード
Source: BusinessWeek
数年前だったらこうした現象は起きなかったでしょう。でも、今ではデジタル世代の若者たちが国籍や人種の壁を超え、地球規模で瞬時にアイディアを交換し、噂を広めているのです。Web 2.0と若者文化のグローバリゼーションが融合した巨大なコミュニティの誕生です。なかでもWeb 2.0世代の若者たちが特に多く活動している30都市が今、帯状に地球を取り囲んでおり、「Blog Belt(ブログ・ベルト)」と呼ばれています。
このいわば「21世紀のシルクロード」は、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ヒューストン、アトランタ、シアトル、サンディエゴ、といった米国の都市だけでなく、ロンドン、ローマ、マドリッド、トロント、パリ、シンガポール、ジャカルタ、メキシコシティ、モントリオール、北京、モスクワ、ムンバイをつないでいます。
しかも、アメリカがこの情報の流れの中心に存在するといったヒエラルヒー構造ではなく、互いに対等なフラットな関係です。こうして、同じ価値観や流行を共有する若者が増えているのです。今どきの若者を相手にマーケティングする場合、アメリカ的な発想ではだめだし、米国市場だけを思い描いていたのでは成功しないと言われるのも当然ですね。
でも、このシルクロード、落とし穴が多いのです。ナイキのサッカー・ソーシャルネットワーキング・サイト“Joga.com”をはじめとして、多くの企業がこれに挑戦しては挫折をしています。ヒットを連発しているユニリーバはむしろ稀有な例でしょう。同社の場合、バートル・ボーグル・ヘガーティ(BBH)など、広告代理店の卓越した発想力とクリエイティビティ。そして、斬新なマーケティング手法を駆使して大胆な実験を繰り返してきたユニリーバのマーケティング・チーム。その両者の歯車が見事にかみ合った結果なのでしょう。
なぜ、ユニリーバは成功したのか?
「アックス」キャンペーンでいえば、そのセクシーさを成功の要因に挙げる人もいますが、それだけではありません。たしかに2002年の対米ローンチ以降、アックスは一貫して従来の制汗剤の広告からすれば超過激なキャンペーンを展開しています。でも、これらを単にセクシー路線のキャンペーンとしてみるのは、氷山の一角だけを見ているようなものです。
むしろ、若者の心理や欲求などを若者の目線で理解できる洞察力。そして、そこから出発し、「制汗剤」の概念を変えて、新しいカテゴリーを創出した点にこそ成功の秘訣があります。汗を抑え、汗の臭いを消すという“機能”を重視したのが従来の「制汗剤」。でも、十代の若者はそうした機能よりもむしろ香り(フレグランス)に対する欲求が強いことに気づいたユニリーバは、徹底してその欲求に応える戦略を選んだのです。ユニリーバ自身、アックスを決して「制汗剤」とか「デオドラント」と呼ばず、「フレグランス」とか「ボディスプレー」と称しているが、その理由もここにあります。
今年、導入された日本でも発売開始から6週間以内にシェア12%を獲得。また、対米ローンチの翌2003年には米国市場で5,000万ドルを売り上げ、以後、二桁台の伸びを維持。そして2006年にはついに競合P&G社の「オールドスパイス」を金額ベースで抜き、一位の座を獲得しました。
右脳 vs. 左脳
最後に、P&Gと比較しながら、ユニリーバの企業体質にも触れておきましょう。両者のメンタリティの違いが、「なぜユニリーバにできて、他の企業にはできないのか」という問いに対する示唆を含んでいるからです。
『アドエージ』誌のコラムニスト、ジャック・ネフが次にように指摘しています。「P&Gは一対一の消費者インタビューのような定性調査の場合ですら、カテゴリー、商品、機能といった要素をあたかも左脳から消し去れないように見えるのに対し、ユニリーバのやり方は “人類学的”で、人の行動や気持ちの変化をただ観察する」
ここからは、「左脳のP&G」対「右脳のユニリーバ」という図式が見えてきますね。実際、ネフ氏が傍聴した「アックス」のセッションでは、若い男性がたとえば童貞を失ったときにどのような気持ちになるかといったレベルにまで話が及んだそうで、「こういうことはP&G社のセッションではお目にかかったことがない」と彼はコメントしています。
右脳ってやはり大切なんですね。
※今回の記事は『国際商業』11月号に寄稿したものから抜粋し、若干手を加えたものです。詳細は同誌をご参照ください。
November 2, 2007 | Permalink
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