« 社会に良いことをする企業が儲かる? | Main | 夏だ!キャンプだ!…会議だ!? »

May 07, 2007

今、「CMO」が話題になっているワケとは…

どうやら、ケイト・マドックス(Kate Maddox)女史の予測どおり、今年は新たなCMO元年(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)になるのかな…キンバリー・クラーク社の人事に関する最新ニュースを読んでいて、そんな気がしてきました。

昨年暮れ、一つの予測レポートがちょっとした話題になりました。アメリカの業界誌『BtoBマガジン』が大手企業や広告代理店や媒体社などに対してヒアリング調査を行い、それに基づいて発表した「2007年マーケティング関連の10大トレンド予測」です。

070507_cmo1 これを担当したのが同誌のシニア・レポーター、マドックス女史。ここで彼女は10大トレンドのトップに「CMOの影響力増大」を挙げました(ちなみに2番目は昨今話題の「Web 2.0」、3番目が「マーケティングのグローバル化」)。

“CXO先進国”のアメリカにおいて、「労多くして報われない」ことで知られていたCMO。そのCMOがここへきて、脚光を浴びつつあるのには、どうやらワケがありそうです。

最もストレスの多い、最も在任期間の短いポスト

まずは、CMOが「労多くして報われない」ポストであることを物語るショッキングなデータをご紹介します。

070502_cmo_g1_2 エグゼクティブサーチの世界大手、スペンサースチュアート社2004年、全米上位100社に対して行った調査では、CEOの17業種平均在任期間が約54ヶ月なのに対し、CMOはわずか23ヶ月弱(表1)。でも、その程度で驚いてはいけません。業種別でCMOの寿命が最も短いアパレル・メーカー(10ヶ月)では、CEOの平均在任期間は逆に229ヶ月という最長命を誇る、という凄まじい格差が見られます。

070502_cmo_g1 それどころか、同社が昨年行った2回目の調査では、この短命ポストのCMOが2004年以降、年を追うごとにさらに短命化しているという気になる結果が出ています(表2)。

ちなみに同調査では、消費財大手100社のCMO平均在任期間が23.2ヶ月であるのに対し、CFOが39.4ヶ月、CIOが36.4ヶ月ですから、CEOは言うに及ばず、頭に「C」のつくいわゆるCXOのどれと比べても、CMOの短命ぶりは際立っています。

「CMOはアメリカの企業で今、最もストレスの多い、最も在任期間の短いポスト」とAdAge誌が評しているのも頷けます。ところがどっこい、平均値だけみればたしかにCMOは短命化の一途を辿っているのでしょうが、質的には大きな変化…新時代の到来…が感じられます。

新CMO時代に向けて動き出したキンバリー・クラーク社

070507_cmo2 そんな質的変化を物語る最新の事例が、冒頭で触れたキンバリー・クラーク社の動きです。同社は昨秋、ケロッグ社からトニー・パーマーを初代CMOに迎えたばかりですが、その新CMOのイニシアチブの下、今年4月になって大胆な施策を次々と打ち出しました。マーケティング予算の大幅増だけでなく、予算配分をテレビ中心の既存メディアから新しいメディアにシフトすることを発表。同時に3つのマーケティング関連ポストを新設し、すべて社外から人材を登用するなどマーケティング強化に積極的に取り組み始めたのです。なお、これらのマーケティング関連ポストは重要な意味をもっているので、少し詳しく見ておきましょう。

全事業のブランド戦略を司るVP-global brandsにはコカコーラ社CMO、Andrew Bienkowskiをスカウト。ナレッジマネジメントを担当するVP-global marketing knowledge and intelligenceにはm&m'sで有名なマーズ社の経営陣からRoger Chackoを抜擢。広告会社やマーケティング会社との関係を統括するポスト、VP-global integrated marketing communicationsにはレオバーネットの役員、Clive Sirkinを一本釣りするといった具合です。

パーマー自身はこの人事の目的について、「マーケティング投資の効率化を図るため」とか「マーケティングが急速に変化している今日、広告やマーケティング業界の仕組みに精通している人物を採用することは効率性の観点からも重要」と述べており、そこには徹底した効率性重視の姿勢が見られます。

また、こうした強力な布陣を敷くことで、CMOを社内マーケティング部門を管理するという単なる部門長の役割から、競争力や成長の源泉、あるいは企業の価値創造のドライバーとしての役割への転換を意図していることは明らかです。

Chief Marketing OfficerからChief Growth Officerへ

これは、「2007年マーケティング関連の10大トレンド予測」(前述)で、マドックス女史が指摘していることとも符合します。彼女は業界関係者の言葉を引用し、2007年が「第3世代CMO」の飛躍元年になるだろうと予測しているのです。

第1世代は90年代前半に登場した「C」とは無縁の名ばかりのCMO。第2世代は90年代後半~2000年代初頭の実務派CMO。それに対し、第3世代は、CEO、CFO、COOからも尊敬されるだけの影響力と指導力を兼ね備え、マーケティングの投資効率(ROI)という視点をもったCMOだそうです。会社の売上・成長により直接的にかかわる第3世代のCMOを、クリエイティブや広告に精通した第2世代のCMOと区別するため、CGO(Chief Growth Officer)という肩書きすら登場したほどです。

070507_cmo3 そうした第3世代CMOのさきがけ的存在が、2001年にP&Gのグローバル・マーケティング・オフィサーに就任したジム・ステンゲルで、しばらくは彼の独走が続いていましたが、この2年ほどで、バーガーキングのラス・クライン、スターバックスのアン・ソンダース、GEのベス・コムストック(右写真)など、第3世代CMOも徐々に厚みを増してきました。キンバリー・クラークのパーマーCMOはこうした新しい時代のうねりをさらに加速させることでしょう。

ひるがえってわが国の実情はどうでしょう。『CMO マーケティング最高責任者』(ダイヤモンド社2006年12月刊)によると、フォーチュン1000社の47%がCMOを設置しているのに対し、日本では大企業に限定しても5%未満だそうです。では、その中で第3世代CMOと呼べる人はどれだけいるのでしょうか。マーケティング活動のアカウンタビリティを論じるのに依然として「認知率」などの指標を用いているのは第2世代CMOの特徴だそうですが、そんなことを考えると、ちょっと背筋がぞっとしませんか?

吉崎 弘高(代表取締役社長)

May 7, 2007 |

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a0120a7116930970b01287613cc6c970c

Listed below are links to weblogs that reference 今、「CMO」が話題になっているワケとは…:

Comments

The comments to this entry are closed.