「倫理的消費者」の取り込みに動き出した高級ブランド
買い物をするときの私たちの何気ない選択が資源の枯渇や環境破壊につながったり、途上国の人々の暮らしに影響を与えたりする。こうしたことまで考えて商品を選択する。それが「倫理的消費者」だ。これまでその存在を軽視してきたラグジュリー・ブランドが、ここへきて「倫理的消費者」を意識した戦略をとりはじめた。チェンジエージェントとしての「倫理的消費者」は今後、ますます企業活動に大きな影響を与えていくであろう。
「フェアトレード商品」と聞いてまず思い浮かぶのはコーヒー豆(5月31日付ブログ「LOHASなコーヒー」)という人は結構多いが、実際には、チョコレートや生活雑貨からオーガニックコットンを使ったエコ・ファッションまで、実に多彩だ。ただ、これらを手がける企業の大半が小規模経営だし、いずれも知名度の低いローカルブランドである。そして、必ずしもカッコイイおしゃれなデザインとは限らない、というのがこれまでの“常識”であった。
ファッションの世界で今、その“常識”が覆されつつある。ロックバンドU2のボノが、夫人や友人のデザイナーと共同で今年3月、立ち上げたフェアトレードのファッションブランド“EDUN”(エダン)の成功もその要因の一つだが、むしろ、グッチやボッテガベネタ等、高級ブランドを抱えるPPRと、ルイヴィトンに代表されるLVMHというメジャーな両グループがともに新たな路線を打ち出したことが注目される。
途上国の生産者に適正な賃金を支払い、永続的に取引を続けることで、貧しい人々の経済的自立をサポートするというのが狭義の「フェアトレード」だが、両グループともこれに環境の視点を加えているのが注目される。7月3日付の英Financial Times紙サンデーマガジンが、そんな最新のトレンドを特集している。
“Ethical Consumerism”― 日本語では「社会的責任を意識した倫理的消費者」と訳されることが多いが、分かりやすく言えばこうなる。日々買い物をするときの私たちのなにげない選択が、石油資源の枯渇や環境破壊につながったり、途上国の人々の暮らしに影響を与えたりする。こうしたことまで考えて商品を選択しよう、という発想である。
これに名乗りを上げたのはPPR。ファッションブランドだけでなく、プランタン等の小売業も展開するPPRは5月17日、プランタンやラルドゥートなど、グループ内のすべての小売店で今後、フェアトレード衣料品の扱いを増やし、他社に先駆け、“エシカルファッション”に力を入れる旨発表した。これは今春、実験的にプランタンにコーナーを設けた“Veja”ブランドの商品が予想外の売れ行きを見せたことに意を強くしたというのが本音であろう。
ちなみに、“Veja”は、二人のフランス人起業家がはじめたスニーカーのブランドで、オーガニックコットンと天然ゴムを使用し、ブラジルでつくられている。これが飛ぶように売れ、入荷待ち状態が続いているという。素材や製造方法が“倫理的”であるだけでなく、デザインがおしゃれである点が人気の秘密だ。
他方、ルイヴィトンは、PPRとは異なる路線を打ち出した。地球温暖化の原因、二酸化炭素の排出削減だ。同社のエマニュエル・マティウによると、昨年からサプライチェーン全域にわたる二酸化炭素の排出を調査した結果、全工程中もっとも二酸化炭素の排出量が多かったのは商品の空輸であることが分かったという。というわけで、今年から、可能な限り飛行機をやめ、海上輸送に切り替えはじめた。船だと、二酸化炭素の排出量が40分の1で済む。このあたりのフランスの環境・エネルギー開発庁が開発したCarbon Inventoryという二酸化炭素測定方法で分析したものだ。
このCarbon Inventory法によると、ルイヴィトン社のサプライチェーンで、輸送に次いで大きな排出源(全体の8%)となっているのが包装である。そこで同社は、包装の簡素化にも着手すると同時に、素材面でも、プラスチックのパッケージを止め、再生厚紙に切り替えつつある。
たしかに現時点では、Tシャツはともかく、何十万円もするドレスやバッグを買うときに、ここまで気にして商品選びをする「倫理的消費者」はごく少数派であろう。だが、消費者の意識が確実に変わりつつあることを考えると、あと1~2年も経たない内に、高級ブランド業界全体にとってこれは重要な経営課題となっていくものと思われる。
July 24, 2005 | Permalink
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Comments
興味深く読ませていただきました。
特に、ルイヴィトンのサプライチェーンの中で最も二酸化炭素を排出するのが、空輸と包装だというのが意外で新鮮でした。
おそらく、「環境問題に進んで対応している」というイメージ自体が、顧客への訴求力になり得るため、積極的に環境問題に対応しようとしている企業は、それをコストとして捉えるのではなく、差別化に向けた先行投資として取り組んでいる面もあるのだろうと考えさせられました。
そう考えるとロハスも環境対応も、ただ愚直に「よきこと」を実行するだけでは足りず、いかにそれを社会に、顧客に見せていくかが企業にとっては重要な問題であり、すぐれてマーケティング的な問題のように思われます。
CSRとRP、マーケティングの親和性からどんなビジネスが生まれるのか、興味津々です。
Posted by: Yoshi | 24 Jul 2005 22:47:41