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November 17, 2006

大学生のハートをつかむ(2)

061106_cp1_2_1 日本と同じく若者の活字離れが進むアメリカでは、新聞や雑誌はどこも生き残りに必死です。そのような状況にもかかわらず、今、大手メディアや広告主が大学新聞に熱い視線を注いでいます。日本では考えられないことですが、その理由はいったい何なのでしょうか?

謎を解く鍵は、日本よりはるかに進化したアメリカの大学新聞のビジネスモデルにあります。

ナショナル・スポンサーからの広告収入という点で、大学新聞と一般紙とでは見事に明暗が分かれる。9.11事件以降、出稿を手控えていたナショナル・スポンサーが特にこの1~2年、大学新聞への出稿を増やし続けているからだ。その理由は前号で述べたとおりだ。

急増するナショナル・スポンサーからの広告収入

061106_cp2 オハイオ州立大学の “The Lantern”を例にとろう。2004年以降、発行部数28,000部のこの大学新聞の広告収入は全体で21%増えたが、その内訳を見ると近年の傾向が浮かび上がる。過去5年間で、ローカルの広告収入は4%増たったのに対し、ナショナル・スポンサーからの広告収入は27%もアップした。

ウォルマートが大学新聞でのキャンペーンに乗り出したワケ

061106_cp3 ウォルマートもそんなナショナル・スポンサーの一つだ。同社は昨年に引き続き、今年8月も全米の大学新聞を使った大学生向け販促キャンペーンを大々的に展開した。アメリカの場合、9月から始まる新学年に向け、8月に“Back to College”キャンペーンを行う消費財メーカーは多い。ウォルマートのキャンペーンもまさにこれだ。寮生活の必需品であるベッドや寝具、机や本棚、MP3プレーヤー、小型冷蔵庫などの広告が各キャンパスの大学新聞の紙面を飾った。同社の担当者も、大学生をターゲットにした広告媒体としては、「大学新聞の費用対効果は抜群だ」と指摘している。

とはいえ、印刷媒体だけで大学新聞の経営が成り立っているわけではない。各紙とも多角化・マルチメディア化を積極的に推し進めている。事例とデータでご紹介しよう。

オンライン化・多角化による事業基盤の強化

061106_cp4たとえば、テキサス大学のThe Daily Texanは、発行部数では全米3位、年間総頁数では全米最大の大学新聞だが、その地位にあぐらをかくことは決してしなかった。10年も前から新聞のオンライン化を進めた結果、ユニークユーザー数は1万人を突破した。

日本とは桁違いの事業規模

これだけでも広告収入の基盤が強化されたことは言うまでもない。さらに、ラジオやテレビ放送、学生のアパート探しを助けるためのオンライン検索サービスも含めると、The Daily Texanの事業規模は今や総額230万ドルにまで拡大したという。230万ドルといえば、ざっと2億6千万円。日本の大学新聞とは桁違いのスケールだ。

経済的に自立するアメリカの大学新聞

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061106_cp7表は、米主要大学新聞を発行部数順に並べたものだが、大半が日刊紙(平日のみ)で無料となっていることが分かる。発行頻度も、わが国の大学新聞が月間か季刊、多くても週1回であるのとは対照的だし、なんといっても最大の違いは、アメリカの大学新聞はその多くが大学からの補助に頼らず広告収入だけで自立できているという点であろう。広告代理店や広告主向けの媒体資料やレートカードなども、一般紙顔負けの立派なものを用意しているところが多い。

全米規模で進むネットワーク化

さらに注目すべきは、これらトップ10を含め、全米450の大学新聞のオンライン版すべてが、College Publisherのネットワークに組み込まれているという点だ。061106_cp6 試しに、どの大学の新聞でもいい、そのウェブサイトにアクセスするとトップページには必ずといってよいほど、“collegepublisher network”のアイコンがある。

オンライン版のある大学新聞は全米で500強と言われているので、College Publisherはその約9割にホスティングサービスを提供していることになる。そして、このCollege PublisherはY2Mの一事業部門だ。こう考えると、バイアコム傘下のMTVが8月、Y2Mを買収したのも十分に頷ける。

オンライン版が大学新聞の新たな広告収入源としていかに重要になりつつあるかは、College Publisherが行った最新の調査が見事なまでに浮き彫りにしているので、関心のある向きはその報告書“US College Newspaper Survey 2005-06”を参照されたい。

November 17, 2006 | | Comments (0) | TrackBack