スーク ver. 2.0
「やっぱ、そうきたか」… 週末に届いたAdvertising Age誌をぱらぱらめくっていて、ふとそうつぶやいてしまいました。“LIVING IN THE AGE OF ATTRACTION”と題したケビン・ロバーツの寄稿文を読んでいたときのことです。
「マーケティングの原点はカサブランカのスーク(市場)にある」と彼は言っているのです。これって、昨年のメルマガ「文化人類学者を起用しはじめた米企業」にも書いたように、知り合いのフランス人から同じことを聞かされたのは20年も前のこと。要するに人間は、効率重視の整然としたものより、雑然としたカオスでの体験に心惹かれるのです。エイコンもずっとこれを教訓にしてきました。
ケビン・ロバーツは、広告会社サーチ&サーチのグローバルCEO。というより、最近では“Lovemarks: the future beyond brands”(邦訳『永遠に愛されるブランド ラブマークの誕生』)やその続編、“the lovemarks effect: winning in he consumer revolution”の著者として広告業界以外でも知られるようになった「時の人」です。
発想の原点は「スーク」
理性だけじゃなく五感を、エモーショナルなつながり(emotional connection)を重視する彼の発想の原点は、かつて勤務した中東でのスーク(バザール)体験にあったのです。あ、そうそう、「スーク」はアラビア語で「市場」のことですが、ペルシア語だと「バザール」となります。
イギリス生まれのケビンにとって、スークの印象はあまりに鮮烈だったようです。「路地ごとに異なる色彩、鼻腔をくすぐる多種多様な香り、遠くから聞こえてくるアラビア音楽の調べ、飛び交う罵声や笑い声。そして気が向けば店主がふるまってくれる一杯のお茶…スークは、まさに人の五感を刺激し、emotional connectionが生まれる場だ」というのです。なるほど、です。
人間は感情の動物?
そして21世紀の今、10億人以上の人たちが参加するオンライン・マーケットを支配しているのもまたこのemotional connectionだというのです。
たしかに、オンライン上の売り買いにしても、SNSやYouTubeやSecond Lifeにしても、そこに参加している人たちを突き動かしているのは、効率とか理性じゃないですよね。
もちろん、「欲しいものが1円でも安く買えればそれでいい」という人もいます。でも、多くの場合、原動力となっているのはむしろ、「おもしろい」、「楽しい」といった人間の素朴な感情や、わくわくするような発見や冒険を求める気持ちだったり、つながっていたいという根源的な欲求だったりします。
Souk ver. 2.0
じゃ、いっそのこと、現代のオンライン・マーケットを「Souk ver. 2.0」と名づけてみましょうか。そうすると、それまで見えなかったことが見えてきたり、不思議に思っていたことに急に合点がいったりするのでは?
【参考1】スークってこんなところです
スークは、カサブランカだけじゃなく、カイロ、ダマスカス、アンマン、イスタンブールなど、イスラム圏ならどの都市にもあります。
人がすれ違う程度の道の両側に、ところ狭しと小さな店が連なっています。織物屋や靴屋があるかと思うと、カセットやCDを売る店があったりします。ちょっと間口が広い大きな店は絨緞屋。水たばこの器具を売る店や、アラブ特有のやたら甘い菓子を売っている店もあります。指輪やネックレスなど金製品専門の店も軒を連ねています。
垂直の鉄棒に薄く切ったラム肉を何重にも巻きつけ、ゆっくり回転させながら炭火で焼き上げるケバブの専門店。唐辛子、ターメリック、ナツメグ、シナモン、乳香、サフラン、カルダモンといった香辛料を麻袋に入れて店先に並べている店もあります。
【参考2】スークの三大特徴
スークは、欧米のショッピングモールとはもちろんのこと、私たちが普段買物をする商店街とも3つの点で大きく異なります。
- 第一に迷子になりそうなぐらい道が縦横無尽に連なっていること。最初から理性的な買物など拒否する設計になっているわけです。
- 第二に値札がない点です。だから値段交渉を延々としなくてはなりませんが、世間話になったりすると、 売り手・買い手の関係なんかそっちのけで仲良くなったりもします。ロバーツ氏が言っているように、お茶が出てくるときもあります。
- そして最後に、圧倒的な歴史の長さです。どのスークも何世紀にもわたって商売しているのに、決して人を飽きさせません。
一つには、スークは単にモノを売り買いする場ではないからです。売り手・買い手の双方がやりとりを楽しむ場だからです。もう一つは、作り手と売り手の距離の近さです。必ずと言っていいほど店の裏や近くには、職人街が存在しています。だから客の好みの変化を肌で感じ取り、それをすぐ商品に反映させることができます。
おそらく、こうした特徴こそ、スークが何百年もの間、多くの人たちを惹きつけてきた魅力の源泉でしょう。
February 5, 2007 | Permalink | Comments (0) | TrackBack