大学生のハートをつかむ(1)
どうすれば若者にリーチできるか。企業や広告代理店にとっては実に頭の痛い難問だ。「従来型のメディア、ましてや新聞じゃね~」と誰もが思っていた。ところがどっこい、アメリカで若年層を確実に惹きつけている新聞がある。2回に分けて、その人気の秘密に迫る。
YouTubeやMySpaceが新時代のメディアとして加速度的な人気を集めているのとは対照的に既存の紙媒体は軒並み不振をかこっている。特に若年層向けの媒体としては新聞の威力は地に落ちてしまった。
大手新聞グループの名門ナイトリッダーは今年に入り、投資家の圧力で身売りを余儀なくされたし、New York Timesは10月19日、第3四半期が39%の減益となったことを発表した。また、ボストングローブ紙も赤字に転落した。いずれも惨憺たる状況だ。
しかし、アメリカの新聞業界の中で唯一、右肩上がりの成長を続け、若年層を確実に惹きつけているセグメントがある。大学新聞だ。
大学新聞は読者数を維持しているどころか、大学生から人気を博している。伝統的な新聞と比べて、「かっこいい」、「共感できる」といったところが人気の秘密だが、それを支えている原点は学生自らが発信していることにある。ユーザー自らが発信するという構図はYouTubeやMySpaceと同じだ。
しかも、読者は従来型のメディアではますますリーチしにくい大学生。となれば、大手広告主が放っておくはずがない。フォードモーター、マイクロソフト、サムスン、ウォルマートなども最近、大学新聞に出稿しはじめた。
大学新聞に熱い視線を注いでいるのは広告主だけではない。大手媒体社も大学新聞の取り込みに躍起になりだした。8月はじめには、USA Todayなど新聞101紙を発行するガネット・グループ傘下のタラハシー・デモクラット紙が、フロリダ州立大学の大学新聞“FSView & Florida Flambeau”を買収。全米の大学新聞でも数少ない有料購読の新聞だ。
また、同日、メディア大手のバイアコム傘下のMTVはY2Mを買収することで合意した。“Youth Media & Marketing Networks”という正式社名よりも、“Y2M”の通称で知られる同社は、全米450の大学新聞のウェブサイトにホスティングサービスを提供している。なお、MTVはもともと全米750のキャンパスをカバーする全米最大の24時間TVネットワークmtvUを持っているが、この買収により、mtvUに対する大学生の信頼をさらに高めようという戦略だ。
大学新聞に対する関心が急速に高まってきたのにはいくつかの理由がある。
第一に、市場規模の大きさだ。少子高齢化で定員割れも珍しくない日本の大学と異なり、アメリカの大学生数は右肩上がりで伸びており、今年、過去最高の1,700万に達した。ハリス・インタラクティブ社が2006年4月~5月に行った調査では、大学生1,700万人の年間支出額は昨年から80億ドル増の1,820億ドルにも上り、その内、授業料や生活費等を除いた自由に使える金額は昨年より12%増の460億ドルといわれている。要するに、5兆円超のマーケットである。
第二に、既存メディアでは大学生にはリーチしにくいという事情がある。
既存の紙媒体が手をこまねいているわけでは決してない。Time, Inc.は1998年には人気雑誌『People』のティーン向け姉妹誌『Teen People』を創刊し、2003年には『Sports Illustrated』の大学生向け姉妹誌『SI on Campus』を出した。だが、2005年には『SI on Campus』、そして2006年7月には『Teen People』の廃刊に追い込まれた。またファッション雑誌『エル』で有名なフランスのアシェット・フィリパッキ・メディアもつい最近、その妹誌『エル・ガール』の廃刊を決めた。いずれも思ったほど部数が伸びず、広告収入が減少したためだ。
それと対照的なのが大学新聞だ。日本同様、アメリカでも若者の活字離れが急速に進んでいるが、大学新聞だけは高い閲読率を誇っている。米ニュージャージー州に本拠を置く大学生市場に特化した調査会社、スチューデント・モニター社の2005年調査によると、過去5号の大学新聞の内、どれか1号でも読んだ学生の割合は71%。それに対し、1週間に1回でも大手新聞に目を通す学生はわずか46%。しかも大学新聞の閲読率は2003年以降伸びている。
October 24, 2006 | Permalink | Comments (1) | TrackBack