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May 22, 2005

「植林」=金融商品という新発想

panama視点をちょっと変えるだけで、まったく違う“絵”が見えてくる。そんな発想力のすごさを実感させる事例が、パナマ運河だ。1914年開通のこの運河が今、危機に瀕している。熱帯雨林の減少に伴う流域の保水力低下で、大型船は10%以上の積荷削減を強いられているが、放っておくと、いくら積荷を減らしたとしても通航できなくなるのは時間の問題だ。世界経済への影響もばかにならない。それほどの危機的状況なのだ。解決策は植林による森林復活だが、その財源がない。そこに希望の光をもたらしたのが、植林を「金融商品」にしてしまおうという発想だ。“植林債”という一人の人間の発想が今、ウォルマートやトヨタなど大手企業の賛同を得て、実現しようとしている。

この週末、デスクの上にたまったEconomist誌をぱらぱら見ていたら、面白い記事を見つけた。「ものごとは、視点をちょっと変えるだけで、まったく違う“絵”になる」という手品のような話だ。

話の舞台はパナマ運河。1914年に開通した全長約80kmの運河だ。色とりどりのコンテナを積載した船が年13,000隻以上この水路を通り抜ける。所要時間は約9時間。もし、この運河がなければ、コンテナ船はマゼラン海峡を通り、2~3週間かけて南米大陸を迂回しなければならない。当然、運送費が跳ね上がり、物資や製品の価格にはねかえる。だから、パナマ運河が使えなければ、大変なことになる。

その「大変なこと」が今、現実になろうとしている。水が足りないのだ。

実は、1隻の船を無事、通り抜けさせるには2億リットルもの水が必要といわれている。なぜなら、大西洋と太平洋を結ぶこの運河、大陸分水嶺を分断しているため相当の高低差がある。だから途中に3つ水門を設け、船を上下させるのだが、それには膨大な量の水が要る。この水を供給するために2つの人造湖がある。問題は、その水位が年々着実に減少しているという事実だ。原因は周辺の森林破壊である。

かつては、3400万km2の森林にいったん吸収された雨水が時間をかけて人造湖に注ぎ込んでいた。だが、焼き畑や開発などで熱帯雨林が大幅に減少した結果、流域の保水力が低下し、水が一気に海に流入してしまうようになった。1998年にはついに喫水制限が行われ、その後も段階的に制限が強化されてきた。すでに大型船は10%以上の積荷削減を強いられているが、放っておくと、いくら積荷を減らしたとしても通航できなくなるのは時間の問題だ。世界経済への影響もばかにならない。それほどの危機的状況なのだ。

解決策は、植林による森林復活である。

面白いのはここからだ。「熱帯雨林破壊」は環境保護団体の格好のテーマだが、3400万km2の森林を蘇生させる費用は莫大で、彼らの手に余る。じゃ、運河の管理権をもっているパナマ政府がインフラ事業としてやればいいじゃないか… ところがどっこい、多額の債務を抱えるパナマ政府には荷が重過ぎる。要するに八方塞なのだ。

そこに希望の光をもたらしたのが、一人の金融マン、ジョン・フォーガッチ。ロンドンの森林保険会社、ForestReの会長である。植林を「金融商品」にしてしまおうというのが発想の原点だ。金融商品なら環境団体や国に頼る必要もない。他の保険会社と組んで25年債を発行し、植林費用に充てようというのだ。投資家は、ウォルマートやトヨタなど、運河の大手ユーザー。これらの企業は運河の閉鎖に備え莫大な保険をかけている。だが、“植林債”を購入すれば、この保険料が割引になるという特典がつくという。ふむ、お見事!

May 22, 2005 | | Comments (0) | TrackBack

May 12, 2005

ブログ世代の「恒常的関心分散症候群」

久々にプレスクラブ(外国特派員協会)での昼食会に出かけた。米PR会社エデルマンのCEO、リチャード・エデルマンが今、話題の「ブログ」について語るからだ。予想通り会場はほぼ満席だったが、競合PR会社の面々よりも各国大使館関係者の出席が目立ったことは意外だった。

“The Blog Revolution” と題した講演の中でエデルマンは、ブログが既存メディアや企業広報にいかに大きな影響を与えているか実例をまじえながら語り、情報の流れ=コミュニケーションの世界に地殻変動が起きつつあることを指摘。そうした話もそれなりに刺激的だったが、なぜか一つの言葉が印象に残った。

“Continuous Partial Attention”

「今の消費者は疑い深いだけでなく、continuous partial attentionの状態にある」という文脈の中で出てきた言葉だ。直訳では「連続した部分的関心」、意訳では「恒常的関心分散症候群」といった感じだろうが、ここは一つ、エデルマン自身の説明に耳を傾けよう。

“What is continuous partial attention? It’s when I go to the gym to work out, I see an investment banker who’s got a BlackBerry* on his belt, he’s got a cell phone on his side, he’s reading the Wall Street Journal, he’s watching CNN or CNBC, and he’s exercising. That’s five things at the same time. If you watch you kids, and you watch them online. They have five different instant messaging conversations going at the same time. Quite stunning! Nobody is paying full attention any more. (* 北米で人気のハンドヘルド端末)

要するに、大人から子供まで、もはや一つのことに集中しない(できない?)どころか、つねに複数のことを同時にするのがあたりまえ。だから、関心が見事なまでに分散してしまっている、というわけだ。

日本で「ながら族」が流行語になったのは1958年。「じゃ、“Continuous Partial Attention”なんて今に始まったことではないじゃないか」との声も聞こえてきそうだが、当時の「ながら族」は、新聞読みながら食事をする、ラジオを聴きながら勉強するといった程度。それに比べ、「恒常的関心分散症候群」となると、関心の分散の度合いもハンパではない。

「じゃ、どうしたら、そんな落ち着きのない消費者の関心を惹きつけることができるのか」。それが企業にとっても、政府にとっても、PR・広告会社にとっても、大きな課題となる。近年、幼児のあいだで増えているADHD(注意欠陥・多動性障害)。一つのことに集中できず、注意力が持続しない子供たち。その点では、今日の消費者もADHD化しているのではないか。となると、これはなかなかに難題といえよう。

May 12, 2005 | | Comments (0) | TrackBack