その昔、アメリカの新聞社で働いていた頃、こう言われたことがある。
締め切りが迫ってもタイプライターを叩く手をしばしば休め、考え込んでいる日本人のブンヤ見習いをみて、その上司はよほどはらはらしたのであろう。よく言えば、「完璧主義」のなせるわざだが、要するに「のろい」のである。だが、そこはそこ、同じことを言うにしても、ユーモアのセンスを忘れない。たしかに、「お前はのろいぞ」と言うより、「昨日の新聞を読みたがる奴なんて(この世の中に)いるのかね?」と言った方が面白いし、相手の記憶にも残る。
言うまでもなく、この忠告、ローリング・ストーンズの“Yesterday’s Paper”からとったものだ。1967年のアルバム“Between the Buttons”に収録されているこの曲は、そのサウンドよりも、“Who wants yesterday's paper? Nobody in the world.”という一節で、歴史に名を残すこととなった。今で言う「流行語大賞」の最たるものである。浮揚感漂うそのポップな旋律を思い出せない人でも、それどころかローリング・ストーンズを知らない人ですら、この一節なら知っている。それほどの名台詞なのだ。
それから幾星霜… スピードと効率がなによりも問われる時代となった今、デスクの上の古い資料の山を見るたびに、“Who wants yesterday's paper?”を思い出し、ドキッとする。
さて、世の中というのはよくしたもので、「捨てる神あれば、拾う神あり」。あえてスピードを競わない新聞、すなわち“Yesterday’s Paper” を是とする新聞もある。知識階級にめっぽう評価の高いChristian Science Monitorだ。最新のニュースを読みたければNew York Timesを、1週間前の出来事の分析や解説を読みたければChristian Science Monitorを読め、とよく言われたものだ。たしかに、同紙の分析の深さは他紙を寄せつけない。
とまあ、そういうわけで、このブログでも明日からは書きためたちょい古いネタを何回かアップしよう。ゴールデンウィークのあいだぐらい僕も楽をしよう(?)というのが本音だ。
ところで、ローリング・ストーンズの“Yesterday's Paper”では、“Who wants yesterday's paper?”と“Nobody in the world.”のあいだに、“Who wants yesterday's girl?”というフレーズが挿入されているのをご存知だろうか。
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