一人で深夜残業をしていると人恋しくなる、というより音恋しくなる。で、BGMがわりにテレビをつける。そんなとき、偶然、米Bravo TVの番組、Inside the Actors Studioをやっていたりすると、ラッキー!という気分になる。なぜかって? それを説明しだすと夜が明けてしまうので、あえて一つだけ言うと、毎回、ひとクセもふたクセもある人気俳優からホンネを引き出す名司会、James Liptonの絶妙な話術にある。いや、「話術」という言葉は彼には失礼だ。彼の対話はむしろ「芸術」であり、コミュニケーションの極致と呼ぶにふさわしい。
その夜も、たまたま、ジェームス・リプトンの抑制の効いた声が聞こえてきた。ゲストは世界的歌手兼大女優のBarbra Streisand(バーブラ・ストライサンド)。ここだけの話、個人的には彼女の鼻が好きになれず、これまでストライサンドにのめり込むということはなかった。そんな偏見を見事に打ち砕いたのが、冒頭で紹介した彼女の言葉だ。文字通り、心に染み入る言葉だ。プレゼンテーションを生業としている者にとって「座右の銘」にすべき言葉である。特に企業相手のプレゼンだと、どうしても技法に走りやすい。でも、所詮テクニックはテクニック。相手の心を動かせるかどうか最後の勝負は、月並みな言葉だが「心」である。
そんな「心」からほとばしるようなプレゼンをする男に会ったことがある。米Arnell Groupの創設者、Peter Arnellだ。クライアントに提案するとき、彼はあたかも恋人にラブレターを書くように企画書を書く。表示効果も動画も関係ない。ただ、ひたすら恋文を綴る。一回だけ内緒で読ませてもらったが、あんなに心を揺さぶられたことはない。まさにWhat comes from the heart goes to the heart.である。
リプトンに話を戻すが、彼のすばらしさは「間のとりかた」だ。アメリカ人はtalkativeだとか、自己主張が強いと思われがちだが、どっこい彼にはあてはまらない。実は、プレゼンで陥りやすいもう一つの落とし穴がtalkative(しゃべりすぎ)である。「一生懸命」と言い換えてもいい。とにかく相手に伝えよう伝えようという気持ちが先にたち、切れ目なく必死にしゃべる。
そういえば、当社が以前コンサルをしていた某公益法人の専務理事が寄席に頻繁に通っていた。てっきり落語が好きなのかと思い、ある日たずねたところ、そうではなく、「間のとりかた」を学ぶためとか。「そうか! 寄席は日本版アクターズ・スタジオなのか…」と妙に納得がいったところで今晩は筆を置くこととしよう。
P.S. ところで、ストライサンドのファーストネームがなぜBarbaraでなくBarbraなのかどなたかご存知ですか?
先日はありがとうございました。実は私もこの番組が好きで都合がつくと見ています。この番組はフランスでも流れていて人気番組のようです。ついこの前はアイリッシュの誇り高きマーティン・シーンが出ていて彼の苦労話を聞きながら感動していました。
バーブラ・ストレイザンドの映画はアメリカにいる時にクリス・クリストファセンと一緒に出ていた "A Star Is Born" を見た記憶があります。そのテーマソング "Evergreen" は今でも口をついて出てきます。
PS:彼女の名前についてですが、ウィキペディアによると本名はBarbaraだったのようですが、修行時代(60年代はじめ)により目立つようにするために改名したとありました。
投稿情報: paul-ailleurs | 2006/10/30 17:37