実はこれ、昨日(10月31日)のFinancial Times紙の
フロントページを飾った写真なんです。
ま、フロントページを飾るぐらいだから「時の人」。。ということでピーン
と来た人もいるでしょうが、邦字紙ならこんな写真はほぼ間違いなく
ボツになるはずです。肝心の顔が半分影になって見えない写真なんて
日本のジャーナリズムの基準からすれば、「印刷に耐えない」写真
だからです。
ところが欧米の新聞では、まさにこうした「印刷に耐えない」写真が実に
頻繁に使われています。これはもう、英語と日本語という言語の違いじゃ
なく、価値観の違いですね。
実は日本と欧米とでは、報道写真に期待するものが大きく異なるのです。
昔、らっこがNew York Timesの記者をしていた頃、NYT東京支局の隣に
AP通信社があり、そこに親友の日本人カメラマンM君がいました。その
彼が毎日のようにNYT東京支局に顔を出して、NY本社から空輸されて
くる新聞をチェックしていたものです。
何をチェックしていたかというと、どんな写真が紙面を飾っているかを
チェックしていたのです。同じ事件や記者会見でも、各通信社に配属
されている無数のカメラマンが撮影した写真が配信され、NYの本社は
その中からどれか1枚を選んで掲載する。
だから、カメラマンにとっては毎日が真剣勝負です。
「どうして僕じゃなく、あいつの撮った写真が使われたのだろう?」
M君はそれを知りたくて、来る日も来る日もNYTのページを食い入る
ように眺めていたのでした。そうやって、理屈じゃなく感覚で、身体で
覚えたのでしょうね。。M君の写真の掲載頻度が日を追うごとに増し、
ついには成田闘争の写真ではヨーロッパで最高の賞を獲得するまで
になったのです。
やはりそこまで価値観や感性・美意識の違いを“体得”しないと本当の
異文化間コミュニケーションはできないのでしょうね。ロジックや言葉
の違いだけを云々しているようでは、まだまだ序の口。。そんな気が
します。
さて、冒頭の写真の主は、他ならぬあのバラク・オバマです。
写真のキャプションを読めば分かるように、選挙の終盤戦を迎えた
彼が最後の遊説地に向かう飛行機の準備ができるまでのほんの
僅かな時間、フロリダの空港に停めたクルマの中で一休みしている
ところです。
目を閉じて、マケインを振り切るための作戦を練っているというより、
むしろ2年にわたる激しい選挙戦で疲れ切ったからだを休めるため
一眠りしている… らっこにはそう思えてなりません。
ワイシャツの袖をまくり、颯爽と登場するあのオバマの姿はどこにも
なく、あるのはただクルマのシートに身を沈めるようにして目を閉じる
一人の人間の生の姿。そんな、なんともいえない疲労感がじわーっと
伝わってくるじゃないですか。
A picture speaks louder than words.
一万語を費やして説明するよりも、たった一枚の写真のいかに雄弁
なことでしょうか。
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