(代表取締役社長/チーフ・コンサルタント)
第1回でご紹介するのは、カナダで2008年1月から実施された老舗シリアルブランド「Shreddies」のリニューアルキャンペーン。少し古い話ですが、世の中が暗いムードに包まれているからこそ、まずは思わず笑ってしまう事例を取り上げたいと思います。
シリアルは、北米では子供の頃から毎朝のように食べるもの。だから、「慣れ親しんだ味」の記憶が強く、へたに新商品を出して味を変えると、長年のファンが離れてしまうおそれがあるので、リニューアルはしづらいそうです。
でも、そうこうしている内にブランドが古びてしまう。これがシリアル業界の抱えているジレンマだそうです。
そんな中、見慣れた四角い「Shreddies」に加えて、新しくて刺激的なダイヤモンド型の「Diamond Shreddies」を新発売することでブランドの若返りを狙うというのが今回紹介するキャンペーンです。
パッケージ: まずは従来の「Shreddies」と新しい「Diamond Shreddies」のパッケージをじっくりご覧ください。
・・・お気づきでしょうか?
新商品を装ってはいますが、同じ商品を45度傾けただけで、商品の中身は一切変わっていません。
一見なんともバカバカしいアイディアです。
しかし、この新商品の発売キャンペーンは、テレビや印刷媒体、OOH(屋外広告)、インターネット等を総動員し、カナダ全土で一斉展開されることとなります。
テレビCM: 従来の「Shreddies」の製造工程でのミスが原因で、これまでのような正方形のシリアルではなく、ダイヤモンド型のシリアルが偶然出来てしまうさまを描いています(4/16追記:残念ながら現在は動画がYouTubeから削除されています)
口コミ動画: 消費者に対するフォーカスグループ調査を録画した次の映像も必見。「YouTube」で合計80万回の視聴を記録した動画のうちの一つです。
なんと、この動画、「やらせ」ではありません。登場するのは、正真正銘の消費者で、「やらせ」なのは、コメディアンが演じるモデレーターのみ。
考案した広告会社の担当者によれば、当初、参加者から「ばかにするな」と反発をくらうかと思っていたが、実際にやってみると意外なほど素直にモデレーターの質問に反応するので驚いたとのこと。
※しかも、収録後これが冗談であることを明かした上で、映像を公開していいかどうか尋ねたところ、計15人の参加者の内、14人までがすんなりとOKを出したとか。
ウェブサイト: diamondshreddies.comと いうキャンペーンサイトを立ち上げ、正方形の“従来製品”とダイヤモンド型の“新製品”の写真を並べ、好きな方に投票するよう呼びかけたところ、最初の 4ヶ月間だけで計1万人以上が投票。1年以上経った今も続いており、投票総数は16万票近くに膨れ上がっています(2009年4月現在)。
※ちなみに、現在6対4の割合でダイヤモンド型に軍配。このキャンペーンサイト上で投票を呼びかけている男性のまじめな表情も笑いを誘いますね。
こうして大々的に展開したものだから、国を挙げて「ジョークか、ジョークでないか」の大論争が勃発したとのこと。
「ジョークだったら、さすがにここまで大規模に展開するわけがないから新製品に違いない」という見方が台頭する一方、他方、「やはりジョークだよ」という冷静な意見も根強いといった具合。
ここまでくると、もはや事件なので、新聞やテレビのニュースでも「Diamond Shreddies」を一斉に報道。ブログやSNSを通じたネット口コミもまたたく間に増殖。
消費者の中には、「箱を開けたらダイヤモンド型だけじゃなく、正方形のものが混じっていた」という苦情を寄せる者も多く…ここまでくると消費者まで が会社側の冗談に悪乗りしている気もしますが…それに対し、シュレディーズ社の社長は「新たに両方を50%ずつ梱包した特別パック“Combo Pack”をご用意します」と回答するなど、ジョークの輪はさらに拡大…
こうして、ユーモアのパワーで消費者を巻き込むことに成功したShreddiesは、2008年に主要競合各社の半分程度の予算で、見事20%の売上増を達成したとのことです。
マネをするにはなかなか勇気が要るキャンペーンですが、「ユーモアや笑いの持つ可能性」、「記憶に残るようなアイディアの重要性」という点では、大きく学べる事例ではないでしょうか。
最後に1つ。このアイディアの主はベテランのプランナーではなく、広告会社のインターン生とのこと。1インターン生の新鮮だが突拍子もないアイディアを、否定することなく、活かしきった広告会社とメーカーに拍手!
(4/16追記: 読者であり、当社のクライアントでもあり、当社の番野の前の勤務先でもあるNPO法人ETIC.の山内氏より、「『エイコンもETIC.からインターン生を受け入れています』と記載してくれればパーフェクトでした(笑)」とのコメントを頂きましたので、追記します。はい、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、エイコンは、今も昔も、随分多くのインターン生の活躍に助けられてきています。意欲ある若者のパワーで事業を活性化させたい方はぜひETIC.さんにコンタクトをしてください)
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