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August 13, 2007

夏だ!キャンプだ!…会議だ!?

お盆休みの季節です。郷里に帰省したり、子供たちとキャンプをしたり…

070813_unconference というわけで、今回のテーマは「キャンプ」です。ただ、キャンプとは言っても、アウトドアのキャンプじゃありません。「キャンプ」という名のカンファレンスです。

急速な勢いで世界中に広がり、市場規模数十兆円といわれる世界のコンベンション・ビジネスを脅かしつつある「キャンプ」。それは発想から運営方法まで、すべてにおいて従来のカンファレンスと正反対であるため、「アンカンファレンス」とも呼ばれています。

それが今、なぜ多くの人々を虜にし、熱烈な「キャンパー」にしているのでしょうか。柔軟な発想の持つパワー、その秘密を覗いてみましょう…。

居眠りを誘うconference

パネリストの豪華な顔ぶれにつられ何万円かを払って参加したものの、途中で居眠りするか、しないまでも新しい発見は結局ほとんどない。そんな苦い経験をしたことはありませんか?

それは、カンファレンスがコンベンションという「ビジネス」だからです。一流の会議場を使うから会場費もばかになりません。元を取るため、できるだけたくさんの参加者を集めようとして、高名なパネリストをそろえるわけですが、こうした「客寄せパンダ」も高くつきます。また、早くから集客を開始するには、できるだけ事前に告知する必要があります。そのため、アジェンダも何ヶ月も前から周到に考え、組み立てなくてはなりません。要するに、すべてがあらかじめ決められ、お膳立てされている…それがカンファレンスなのです。

カンファレンスの主催者は、あらかじめ想定したシナリオどおりにことが進むことを期待するものです。だから予想外のハプニングもなければ、聴衆とのやりとりで話が盛り上がるといったこともありません。

そして、すべてにおいてこの反対を行くのが「アンカンファレンス(unconference)」です。

逆転の発想、unconference

たとえば、テーマは決まっていても、アジェンダは当日になるまで分かりません。パネリストと聴衆とを明確に区別しないどころか、参加者全員がパネリストとして発言します。発言しなかった人も、当日の模様を撮影して写真をアップしたり、ポッドキャスティングしたりします。自分のブログで取り上げる人もいれば、動画をアップする人もいます。要するに全員が“参加”するのです。アンカンファレンスのウェブサイトが「ウィキ」というコラボレーション・ツールを使っているのも、全員参加という趣旨を考えれば頷けます。服装もカジュアルです。さらになんと、参加費は無料か実費程度です。

そしてもっと重要なこと…それはとにかく楽しいという点です。

常識のワナ

アジェンダも決まっていない、パネリストもいない…となれば、「収拾のつかない」事態になると思うかもしれません。しかし、それは“常識”のワナです。実際には、“収拾がつかない”どころか、一つのアイディアが刺激となって別のアイディアを次々と生み出し、通常のカンファレンスではあり得ない無数のアイディアが噴出するケースが多いのです。

変化が日々起きているインターネット時代の今日、そもそも何ヶ月も前にアジェンダを予定しておいても、カンファレンス当日までにはアジェンダが古くなってしまう…シリコンバレーなんかでは特にそうです。予定することが難しいのならば、それを解決するためには、一見逆説的ですが、「予定しない」ことです。そこにアンカンファレンスの妙味があります。

増え続ける「キャンプ」という名のunconference

070813_dave 実は、アンカンファレンス自体は、決して目新しいものではありません。「アンカンファレンス」という言葉は、1998年ごろ、XML言語の開発者たちの間で誕生しました。そして、RSS 2.0やウェブログの生みの親として知られるデイブ・ワイナーによって、2004年ごろから広がりだしたのです。

でも、アンカンファレンスがアメリカのIT業界を中心に、幾何学的なスピードで増殖し始めたのは最近です。実際、「○○キャンプ」と称するアンカンファレンスが、「マッシュアップ・キャンプ」、「フー・キャンプ(Foo Camp)」やそれに対抗して誕生した「バー・キャンプ(下の動画がその様子です)」、さらには平日の夜に2~3時間ずつ開かれる「デモ・キャンプ」、ビデオゲームの「ゲーム・キャンプ」など、この1、2年で、雨後の筍のように増え続けています。

しかも、こうした波は、アメリカやカナダだけでなく、急速に地球規模で広がりつつあります。今年4月にはブラッセルで「バー・キャンプ」が、5月にはイタリアのボローニャで「バー・キャンプ」の女性版、「フェム・キャンプ(FemCamp)」が開催されました。7月にはシンガポールで「ポッド・キャンプ」が開かれ、9月にはアイルランドで「ポッド・キャンプ」が、ニューデリーで「OSSキャンプ」が、そして上海で「バー・キャンプ」が予定されています。

アンカンファレンスを覗いてみると…

ではここで、アンカンファレンスのイメージを具体的につかんでいただくため、ビジネスウィーク誌の最近の記事を参考にしながら、今年4月に開催されたアンカンファレンス「Web2Open」の様子をご紹介しましょう。

070813_unc_pic1 サンフランシスコのモスコーンセンターの2階で開かれたWeb2Openの呼びかけ人はクリス・メッシーナという26歳の青年と彼の仲間たちです。彼らは椅子の上に立って、約80名の参加者にそれぞれ3つの「タグ」を使いながら、自己紹介するよう呼びかけます。もちろんマイクロフォンなどなしです。

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それから各自がしゃべりたいテーマを黒板にポストイットで貼っていきます。黒板には縦に1時~1時50分、2時~2時50分といった50分刻みの時間枠があり、横軸には「アルファ」「ベータ」といった分類で区切られた手書きのマス目があります。その空いているところにトピックと自分の名前を書いたポストイットを貼っていくという仕組みです。ただ、クリスに言わせると、このグリッドはあっという間に埋まってしまうので、空き枠を探すのは至難の技とか…

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ロビーでは、アイディア募集のプラカードを首からぶらさげている若者もいて、ちょっとしたお祭り気分です。また、会議室では、一生懸命、自分のアイディアを説明している参加者もいれば、床に寝転がって一休みする参加者もいるといった具合です。

アンカンファレンス急増の背景

デイブ・ワイナー(前出)は、unconferenceの人気が急上昇している理由が「無言の聴衆の中に埋もれている知の発掘を可能にした点」にあるとして、次のように説明しています。

「これまでのカンファレンスだと、パワーポイントの長ったらしいプレゼンが終り、Q&Aがくるまでは、聴衆はただひたすら客席でじっと大人しく待っているしかなかった。どれほどいい意見やアイディアをもっていても、それを発言する機会がない。話す人と聴く人とが完全に分かれており、その間に壁があるのだ。しかし、参加者全員が『話す人』兼『聴く人』のアンカンファレンスでは、両者を隔てていた壁はもはやない」

070813_unc_2feet アンカンファレンス運動の背景には商業主義への反発もあります。どんなコンベンションでも、そこには必ず、「特定の商品やサービスを売り込みたい」とか「自社の知名度を上げたい」といった主催者側の思惑があり、その思惑にそってアジェンダが決められ、パネリストが選ばれる。「そうした思惑に乗るためになぜ何万円もの参加料を払わなくちゃならないんだ」という反発です。その意味で「アンチ商業主義」はアンカンファレンスの特徴の一つです。また、「ゆるゆる」のアンカンファレンスですが、最低限のルールはあります。

  • 一人ひとりが“参加者”であること。飽きたり、自分が貢献できないと分かれば、途中でも席を立つこと。 (これは、二本足の法則<The Law of Two Feet>として知られています)
  • 参加者に対するセールス・ピッチはご法度。
  • すべてが質疑応答時間。質問があればその場ですること。

とはいえ、ルールは必要最小限にとどめ、予定は立てないという「ゆるやかな仕組み」こそが、アイディアの「創発」を可能にしているのでしょう。

最後にカンファレンスとアンカンファレンスの対照的相違点を並べてみました。これを見ながら、アンカンファレンスの意義に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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吉崎 弘高(代表取締役社長)

August 13, 2007 | | Comments (0) | TrackBack