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April 17, 2007

社会に良いことをする企業が儲かる?

070417_csrここ数年、新聞や雑誌、テレビなどで『企業の社会貢献活動』や『CSR経営』といったフレーズや関連記事を目にする機会が増えています。また、実際にこれらの活動にこれまで以上に積極的に取り組む企業も増えてきています。

では、企業がここまで積極的に取り組むその動機は何でしょうか?

「社会的な要求の高まりへの対応」「経営者の素晴らしい志」など、企業により様々でしょうが、欧米企業を対象とした数年前の調査では、企業がCSR経営に取り組む最大の動機は企業イメージの向上、PR効果を期待してのことだったそうです。

しかし、1月29日付のビジネスウィーク誌の特集によるとそれはもう昔の話。

最近は、社会貢献活動を漠然としたイメージアップではなく、本業の収益拡大により直接的に結びつけていこうという事例が増えてきているようです。

社会貢献活動を途上国市場の開拓手段に

例えば、ユニリーバ社。

070417_unilever 2004年の3月、同社はブラジルのサンパウロのスラム街ファベーラに、現地の家電メーカーやNPO、サンパウロ市と協力して、同社の洗濯洗剤ブランド「OMO」の名を冠した無料のランドリーをオープンしました。

36台の洗濯機を備えるこの施設は、スラム街の住民なら登録すれば一回一人当たり2時間無料で利用でき、彼らに経済的・時間的なメリット、そして何より清潔で快適な日々の生活をもたらしてくれます。

そしてこの取り組みは、社会貢献活動として素晴らしいばかりではありません。実は、洗濯洗剤「OMO」の認知度や好意度を高めるために大きく役に立っているのです。

なお、同社は他の発展途上国でもその国に合わせた様々な社会貢献活動を行っています。

医者の数が絶対的に不足しているバングラデシュで無料の移動式診療所を開設したり、ガーナではヤシ油工場から廃棄されるヤシの実をリサイクルし貧困層向けの持ち運び可能な飲料水を製造したり。

このような積極的な取り組みの背景には、同社にとって発展途上国が、現在の売上の約40%を占め、なおかつこれからも成長が見込める戦略的に重要な市場であるという事実があります。

同社CEOのパトリック・セスコーは次のように述べています。

「企業がコミュニティや環境に与える影響について考えるということは、もはや自社の成長やイノベーションについて考えることと同じである。いや、いずれはビジネスを行う唯一の方法になるだろう」

そう、彼らは自分たちのビジネスの将来のために、戦略的に社会貢献活動をデザインし、取り組んでいるのです。

気付き始めたビジネスリーダーたち

他の例では、ダウケミカル社は、世界中で12億人もの人がきれいな水を入手できないという課題を解決するプロジェクトに、国連や財団など共同で取り組んでいます。ダウケミカルによると3億人にきれいな水を提供しうるというこのプロジェクトは、同時に同社の水浄化システムに30億ドルの売上をもたらしうるそうです。

また、社会貢献活動が役に立つのは、直接的な売上の向上だけではありません。

製薬会社のグラクソ・スミスクライン社は、貧しい国々のための新薬の開発に積極的に投資していたところ、それらの貧しい国の政府が、同社の特許を保護することに協力的になってくれたそうです。

他にも、ビジネスウィーク誌の特集には、他にもトヨタ、ルノー、ノキア、HP、東芝、デル、HSBC、フィリップス、ソニー、松下、マークス&スペンサーなどが、社会貢献活動を戦略的に業績につなげる取り組みを行っている企業としてリストアップされていました。

マッキンゼー・グローバル・インスティチュートのレニー・メンドーサ氏は「ビジネスリーダーにとって、サステナビリティ(持続可能性)という概念は、非現実的な理想に基づいた単なるコストでしかなかった。しかし、今や、最も優先順位の高い課題として掲げられている」と、状況の変化を指摘します。

将来への課題

ただ、ここまでは成功事例を紹介してきましたが、実際にはどのような活動を行うのが良いかというのは、それぞれの企業にとってなかなか難しい課題のようです。

例えば、フォードの前CEOは自然保護に熱心だったそうで、工場周辺の自然保護のために20億ドルを投資し、環境系のNGOに対しては2500万ドルを寄付しました。社会貢献活動の費用としては桁違いの金額です。

070417_car しかし、本業において燃費の悪いSUV車やトラックを製造し続けているため、専門家から「自然保護ではなく、燃費の良い車の開発に投資すべきだ」という批判を受けています。何とも残念な話です。

大手戦略コンサルティングのマッキンゼー社が多国籍企業のトップ1,144人に行った調査によると、79%が企業の社会的責任に関わる課題が将来的に自社に何らかの影響を及ぼすと考えているものの、それに現時点でうまく対応できていると回答したのは、わずか3%。これまでとは違う課題に、名うての敏腕経営者たちも四苦八苦しているようです。

このデータから見ても、まだまだ試行錯誤が続くのかもしれませんが、個人的には、動機が何であれ、社会に利益を還元する企業、社会に良いことをする企業が儲かるという考え方が広まりつつあるというのは、素晴らしい流れだと思います。

企業にもメリットがあるということは、単なる慈善活動に比べ、その活動を企業が拡大・継続していく可能性が大きいはずですから…。

(もちろん、利益とは関係なく素晴らしい志をもって社会貢献活動を行っている企業は世界中にたくさんありますし、それはそれで素晴らしいことです)

番野 智行(取締役 / エグゼクティブコーディネーター)

April 17, 2007 | | Comments (0) | TrackBack